ワタシノヒーロー

「所詮人は一人で生きていく生物だ」
この言葉を誰の話からだったかは忘れたが聞いたことがある。
それは私にとって頷ける半面、淋しいという気持ちになってしまう、なんともいえない言葉だった。
ただ、この言葉の中には「自分の事は自分でやれ」という言葉も含まれていると考えるのは私だけではないだろう。
たくさんの人に囲まれながらも孤独を味わう・・・それはどこにでもよくあることだが、一つの乗り物の中で何人もの人がいるイメージから「電車=人が大勢いるのに孤独を感じる場所(またはお互いが独立しあっている場所)」という方程式が私の中で成り立っている。
お互いが他人でラッシュの時は押し競饅頭をするが如く詰め込まれた人、ひと、ヒト。
ろくに身動きが取れないことをいいことに無意味に人(主に女性)の身体を触ってくる痴漢という名の災難。
この時私は人が詰め込まれた、動く箱の中で孤独を味わった。
助けを求めて周りを見ても皆自分の事で精一杯か、見て見ぬ振り。
何とか引っかいたりして退散させたが痴漢行為はほとんど連日続いた。
痴漢は同一者だったのかしつこかった。
いい加減電車を変えようか悩んでいたある日、いつものように人が目一杯押し込まれた電車から髪を三つ編みに結った女の子が出てきた。
その子はカバンを持っていないもう片方の手にネクタイを掴んでいた。
そして電車からネクタイの主を引きずり出して真っ直ぐに駅員のいる所へ向かって行った。
どうやら彼女は自分に痴漢行為を働いた男を自分の手で捕らえたらしい。
少々興奮気味で三つ編みは、ぐしゃぐしゃになっていた。隣に立っていた年配の女性が眉をひそめて女の子を見ていた。
同情しているのか、それとも「はしたない」と思っているのか。
そんなこと私の知ったことじゃない、あのときの私にとって彼女はヒーローだった。
その日から数日たったある日、電車の中に人がなだれ込んでくる波にまぎれて痴漢は私のスカートの中に手を入れようとした。
身動きが出来ないほど私は大きく息を吸い込んで、
「てめぇ、やめろ!!」
  そう怒鳴った。
  その瞬間、私が乗っていた車両の時は止まった。
  乗客を押し込もうとがんばっていた駅員の動きも止まった。
慌てて手を引っ込める痴漢の手が見えた。
ザマァミロ。

その日以来、痴漢には一度も遭っていない。